不妊というと以前は女性の問題と考えられがちでしたが、今では男性の側にも原因があることが明らかになり“男性不妊” という言葉がよく使われるようになりました。
実は、不妊症のカップルの約半分は男性側に問題があり、約80%は精子を作る機能に障害があると言われています。精子が少なくなったり、活動力が弱くなったりという状態がみられますが、その原因はよく分かっていません。この現象は日本だけでなく世界中で見られ、環境や食生活、生活習慣など、さまざまな要因が関連していると考えられています。
タイミングや人工授精、体外受精の場合の受精は、一番良い精子が受精にたどり着く訳ではなく、一番最初にたどり着いた精子が受精します。一方、顕微授精では培養士さんの見た目での判断により精子が選ばれますので、その精子が良いか悪いかは結果がでるまで分かりません。
それに対して医療技術の進歩により、1匹の精子を獲得、授精までできるようになりました。
近年では精子の機能を測定する検査(精子中の酸化ストレスレベルの測定、精子のDNA断片化率の測定)や、体外受精の際に採精した精子から状態の良い精子を分別する PICSI(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)、IMSI(強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別)などの方法が行われています。
鍼灸では、その精子を少しでも多く、元気に育てるための治療を行います。
そのためには、精子が作られる睾丸への末梢血流の改善が主な目的となります。
などが考えられ、鍼灸治療で血流を良くします。
昨今、男性不妊に対する鍼治療の研究も進み、
これらの症状に対しての改善例が報告されています。
「精液所見が世界保健機構(WHO)の基準値を下回っている方(乏精子症,乏精子症・精子無力症の併発症例)を対象として、週1回の頻度で3か月間(合計12回)鍼治療を行った結果、造精機能に関するすべての所見(精液量、総精子数、精子濃度、精子運動率)がWHOの基準値以上に改善した。」
(伊佐治景悠『勃起障害と精液所見改善への鍼灸治療 ー現代医学的アプローチからー』医道の日本2019.Vol.78.No.5:47-52)
@Press 男性不妊症の新たな治療法:鍼治療による精液所見の改善効果を確認 日本アンドロロジー学会第37回学術大会 「SR鍼灸 烏丸」 伊佐治景悠先生 発表 から
精液採取前日の仙骨部骨膜への鍼刺激が精子運動率を上昇させる
※"仙骨部骨膜への鍼刺激による精子運動率の上昇効果−精漿成分を指標とした生化学的検討−" 明治国際医療大学誌18 号:17−25, 2017
また海外の論文ですが、鍼灸治療では、精索静脈瘤や閉塞性無精子症などの形態的な異常には対処することは出来ませんが、精索静脈瘤では手術単独よりも鍼灸と併用することにより精液所見が改善するとの結果も出ています。
当院においても、上記で用いられている方法で治療を行っています。
男性不妊では、この二つの方法をベースに治療し、他に全体的な状態を診て問題があればそれに対応した治療も加えていきます。
女性は卵子が蓄えてある卵が徐々に減っていくのに対し、精子の場合は毎日作られ、精子の元(精母細胞)の状態から精子となるまで74日、約3ヶ月かかります。
鍼灸治療も同じく3ヶ月前から始めることで、精液所見の改善が見られます。
精子は、熱や酸化ストレスに弱く、運動率の低下やDNAの損傷を引き起こします。
そのため日頃から、精子(睾丸)に負担をかけないように気をつける必要があります。
詳しくはこちらのページ参考にしてください