不妊治療に取り組むカップルにとって、着床まで至らないケースは大きな課題です。体外受精(IVF)や人工授精(AIH)の技術が進化する一方で、着床率や妊娠率の向上には限界があります。こうした背景から、補完代替医療としての鍼灸治療が注目を集めています。
鍼治療は東洋医学に基づく施術法で、体のバランスを整えることで自然治癒力を高めるとされています。本記事では、鍼灸治療が着床率に与える影響について、研究データや臨床事例を基に解説します。
鍼灸治療は、身体の「経穴(ツボ)」に鍼や灸を用いて刺激を与えることで、気・血の流れを調整します。東洋医学の視点では、不妊症は「腎虚」や「気滞血瘀」などの概念で説明され、これらのバランスを整えることが着床環境を改善すると考えられています。
鍼灸は特に卵巣や子宮への血流を促進し、卵子の質や子宮内膜の厚みを改善する可能性が指摘されています。研究では、鍼灸治療を受けた患者の子宮動脈血流が向上した例が報告されています。
ストレスは不妊症の大きな要因です。鍼灸治療は副交感神経を優位にすることでストレスを軽減し、体をリラックスさせ、着床の成功率を高める可能性があります。
鍼灸が視床下部-下垂体-卵巣軸に作用することで、排卵や着床を助けるホルモンの分泌を正常化するという仮説があります。
2002年のドイツの研究
IVFと併用した場合、鍼灸を受けたグループの妊娠率は42.5%と、未治療グループの26.3%より高かったことが報告されています。
2018年のメタアナリシス
複数の研究データを統合した分析によると、鍼灸治療はIVFにおける着床率を統計的に有意に向上させると結論付けられています。ただし、患者の体質や治療タイミングによって効果に差がある点も指摘されています。
臨床事例から見る鍼灸の可能性
日本の研究報告でも、特定のツボ(中髎穴)への施術により、子宮内膜の厚みが改善し、着床率が向上したという報告があります。また、IVF前後に鍼灸治療を受けた患者は心理的安定を得られやすいというデータもあり、精神的なリラックスが着床成功に寄与する可能性が示唆されています。
施術者の選択
国家資格を持つ施術者を選ぶことが重要です。また、不妊治療に特化した経験のある鍼灸師を選ぶと良いでしょう。
治療タイミング
当院では、体外受精(IVF)の場合、採卵の場合は3ヵ月前、移植の場合は移植周期の前の周期と移植の前後に鍼灸を行う事をお勧めしています。
安全性
鍼灸は安全性が高い施術ですが、衛生管理が徹底されているか確認しましょう。
鍼灸治療は、不妊治療において血流改善やホルモンバランスの正常化、自律神経の調整を通じて、着床率向上に寄与する可能性が示唆されています。特に体外受精(IVF)や人工授精(AIH)との併用が有効とされ、患者に新たな希望を与える存在となり得ます。
ただし、すべての患者に同じ効果が期待できるわけではないため、医師や鍼灸師と相談の上、自分に合った治療プランを立てることが重要です。
参考文献
Paulus, W. E., et al. (2002). Influence of acupuncture on the pregnancy rate in patients who undergo assisted reproduction therapy. Fertility and Sterility, 77(4), 721-724.
Manheimer, E., et al. (2018). Effects of acupuncture on rates of pregnancy and live birth among women undergoing in vitro fertilization: Systematic review and meta-analysis. BMJ, 336(7643), 545-549.