男性不妊不妊というと以前は女性の問題と考えられがちでしたが、今では男性の側にも原因があることが明らかになり“男性不妊” という言葉がよく使われるようになりました。実は、不妊症のカップルの約半分は男性側に問題があり、約80%は精子を作る機能に障害があると言われています。精子が少なくなったり、活動力が弱くなったりという状態がみられますが、その原因はよく分かっていません。この現象は日本だけでなく世界中で見られ、環境や食生活、生活習慣など、さまざまな要因が関連していると考えられています。男性不妊の原因造精機能障害:精子を造る機能が低下精索静脈瘤:精巣の付け根にコブができ血液の逆流して睾丸の温度が上がってしまう。無精子症(閉塞性・非閉塞性):精子の通り道に問題がある、精子がうまく造られない。OAT症候群(乏精子症、精子無力症、奇形精子症):精子の数が少ない、運動率が低い、正常形態の精子が少ない。ホルモン分泌異常:脳の下垂体からの性ホルモンがうまく分泌されない。性機能障害:勃起や射精ができない勃起障害(ED):勃起した状態を維持できないために性行為がうまくいかない射精障害:勃起はするが射精ができない、膣内射精障害逆行性射精:射精液が少ない男性不妊に対する鍼灸治療の目的タイミングや人工授精、体外受精の場合の受精は、一番良い精子が受精にたどり着く訳ではなく、一番最初にたどり着いた精子が受精します。一方、顕微授精では培養士さんの見た目での判断により精子が選ばれますので、その精子が良いか悪いかは結果がでるまで分かりません。それに対して医療技術の進歩により、1匹の精子を獲得、授精までできるようになりました。近年では精子の機能を測定する検査(精子中の酸化ストレスレベルの測定、精子のDNA断片化率の測定)や、体外受精の際に採精した精子から状態の良い精子を分別する PICSI(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)、IMSI(強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別)などの方法が行われています。鍼灸では、その精子を少しでも多く、元気に育てるための治療を行います。そのためには、精子が作られる睾丸への末梢血流の改善が主な目的となります。血流が悪いとどうなるか?血液の流れが滞る(精索静脈瘤など)事により、睾丸の熱(最適温度は35℃)が上昇する。酸化により染色体の断裂などの異常が起こる栄養素が十分に届かないため、精子の発育に影響がでるなどが考えられ、鍼灸治療で血流を良くします。男性不妊の適応症状昨今、男性不妊に対する鍼治療の研究も進み、精子量・精子濃度・総精子数・精子運動率などの精液所見の改善乏精子症・精子無力症の改善勃起障害(ED)これらの症状に対しての改善例が報告されています。「精液所見が世界保健機構(WHO)の基準値を下回っている方(乏精子症,乏精子症・精子無力症の併発症例)を対象として、週1回の頻度で3か月間(合計12回)鍼治療を行った結果、造精機能に関するすべての所見(精液量、総精子数、精子濃度、精子運動率)がWHOの基準値以上に改善した。」(伊佐治景悠『勃起障害と精液所見改善への鍼灸治療 ー現代医学的アプローチからー』医道の日本2019.Vol.78.No.5:47-52)@Press 男性不妊症の新たな治療法:鍼治療による精液所見の改善効果を確認 日本アンドロロジー学会第37回学術大会 「SR鍼灸 烏丸」 伊佐治景悠先生 発表 から精液採取前日の仙骨部骨膜への鍼刺激が精子運動率を上昇させる※"仙骨部骨膜への鍼刺激による精子運動率の上昇効果−精漿成分を指標とした生化学的検討−" 明治国際医療大学誌18 号:17−25, 2017また海外の論文ですが、鍼灸治療では、精索静脈瘤や閉塞性無精子症などの形態的な異常には対処することは出来ませんが、精索静脈瘤では手術単独よりも鍼灸と併用することにより精液所見が改善するとの結果も出ています。Kucuk EV, Bindayi A, Boylu U, Onol FF, Gumus E. Randomised clinical trial of comparing effects of acupuncture and varicocelectomy on sperm parameters in infertile varicocele patients. Andrologia. 2016 Dec;48(10):1080-1085. doi: 10.1111/and.12541. Epub 2016 Jan 21. PMID: 26791438.男性不妊の鍼灸治療当院においても、上記で用いられている方法で治療を行っています。仰向けの姿勢で、お腹と脚の付け根のツボに鍼を刺して低周波を流す。うつ伏せの姿勢で、お尻の仙骨のツボとお尻の左右真ん中辺りのツボに鍼を刺して低周波を流す。男性不妊では、この二つの方法をベースに治療し、他に全体的な状態を診て問題があればそれに対応した治療も加えていきます。男性不妊の治療計画女性は卵子が蓄えてある卵が徐々に減っていくのに対し、精子の場合は毎日作られ、精子の元(精母細胞)の状態から精子となるまで74日、約3ヶ月かかります。鍼灸治療も同じく3ヶ月前から始めることで、精液所見の改善が見られます。治療ペースは1週間に1回精液採取の前日タイミングの前日日常生活での注意事項精子は、熱や酸化ストレスに弱く、運動率の低下やDNAの損傷を引き起こします。そのため日頃から、精子(睾丸)に負担をかけないように気をつける必要があります。禁煙禁欲しない締め付けない下着を、ブリーフよりもトランクス長時間の入浴やサウナは控える過度の飲酒はさける睡眠を十分に取るストレスの発散詳しくはこちらのページ参考にしてください泌尿器科医 岡田弘先生のオフィシャルサイトこのページのトップへ妊活・不妊鍼灸へトップページへ【関連するブログ】・【男性不妊】 自分は大丈夫だと思ってませんか?・不妊治療の役立つ精子の質の上げ方:栄養編