慢性疲労症候群(CFS)

健康に生活していた人が風邪などに罹患したことがきっかけとなり、それ以降原因不明の強い全身倦怠感とともに、微熱、頭痛、筋肉痛、思考力の低下、抑うつ、不安などが長期に続いて健全な生活が送れなくなるという病態です。

 

慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)は、CDC(米国疾病対策センター)によって 1988 年に提唱された疾患です。

現段階では客観的な検査方法も確定しておらず、また診断を確定することが難しいため、何年も診断がつかずに悩み続ける方もいます。

イギリスやカナダでは、筋痛性脳脊髄炎(Myalgic Encephalomyelitis: ME)と呼ばれ、病態が同じであるため、一般的には慢性疲労症候群((CFS)と並んでME/CSFと表記され、近年は「疲労」のもつ誤解を防ぐ意味もあると言われています。

 

慢性疲労症候群は、その病名からも「ただの疲労だろう」「詐病」などと誤解されることも多く、意欲や気力があっても、身体がどうにも言うことをきいてくれないので健康な人にはその辛さが非常に伝わりにくい病気です。

頭では考えてても、思うように体を動かせない。糸の絡まった操り人形のような状態です。


また近年では、コロナ後遺症/ワクチン接種後症候群の一つの症状として注目されるようになってきました。

慢性疲労症候群の原因

慢性疲労症候群は、一般内科に受診して検査をしても特に異常はないと診断され、他科に回されても結局診断がつかない事が往々にしてあります。そのため心療内科を受診し、慢性疲労症候群はうつ病や不安障害などを併発することもあるため
原因がわからない疲労感 ≒ 慢性疲労症候群
として診断される傾向にあります。

 

昔はまったくの原因不明でしたが、近年発症のメカニズムが解明されつつあり現在も研究が進められています。
なかでも有力なのは
強いストレスや過去のウイルス感染による脳の炎症です
強いストレスや睡眠不足などでの免疫力の低下により、EBウイルスや過去感染した単純ヘルペスウイルスなどが再活性化します。すると、サイトカインという免疫物質が過剰に生成され、脳の神経に炎症をおこすことで、慢性的な疲労感や倦怠感を引き起こしていると考えられています
PET(ポジトロン断層撮影)検査でも脳の炎症が確認されてます。

扁桃の炎症所見

認知機能障害に関係

海馬の炎症所見

抑うつ症状に関係

視床の炎症所見

頭痛・筋痛に関係

参考:理化学研究所

慢性疲労症候群の症状

    ◎三つの主となる症状

  • 大幅な活動レベルの低下
  • 症状:強い倦怠感を伴い、日常活動能力が著しく低下する。
    ※仕事や学業など、社会生活や日常生活において発症前より活動レベルが6か月以上(小児では3ヵ月以上)低下。
    特徴:深い疲労が繰り返し現れる。
       新しく発症した疲労(必ずしも生涯続くわけではない)。
       継続的な運動や過度な運動によるものではない。
       休息しても緩和されない。
    ※ 疲労の原因が明確な場合(例: 仕事や育児)は、「慢性疲労」となり、慢性疲労症候群には当てはまらない。

  • 労作後倦怠感(PEM)
  • 症状:身体的、精神的、感情的な活動後に強い疲労・倦怠感が現れる。
    特徴:PEMはしばしば病気を再発させる。
       一部の患者では、光や音に対する感覚過敏がPEMを誘発する可能性がある。
       活動や曝露から12〜48時間後に症状が悪化し、数日から数週間続くことがある。
       通称「クラッシュ」とよばれ、慢性疲労症候群において特徴的で特に重要な症状である。
    ※ここで言う活動には、身体活動だけでなく精神的ストレスや脳疲労も含まれる。

  • 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
  • 症状:一晩中眠っても気分がよくならず、疲れが取れない。
    特徴:特別な睡眠の変化がないにも関わらず、睡眠の質が悪い。

     

    ◎追加症状

  • 認知機能の障害
  • 症状:思考力、記憶力、注意力、集中力の低下。
    特徴:思考、記憶、実行機能、情報処理に問題がある。
       注意欠陥や精神運動機能の障害が見られる。
       運動、努力、長時間の直立姿勢、ストレス、時間的プレッシャーで悪化することがある。
    影響:仕事を続けたり、フルタイムで学校に通う能力に深刻な影響を与える可能性がある。

  • 起立性低血圧や起立性頻脈(起立性調節障害)
  • 症状::立ちくらみや起立時の動悸、頻脈、血圧低下。
    特徴:5分以上立っているのが難しい場合もある。
       立位時の心拍数と血圧の異常が客観的に測定される。
       立位を維持すると症状が悪化し、横になると改善する。
    影響:立ちくらみ、失神、疲労の増加、認知力の低下、頭痛、吐き気などの起立性症状が日常生活で現れ、直立姿勢で悪化し、横になると緩和する。

参考:CDCホームページ
他にも、音・光・匂いなどの刺激を苦痛に感じる知覚過敏症があります。

慢性疲労症候群のPS基準(疲労度の示す重症分類)

PS(performance status)による疲労・倦怠の程度(PSは医師が判断する)

0:倦怠感がなく、平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる

1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある

2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感のため、しばしば休息が必要である

3全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である

4:全身倦怠感のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である

5:通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である

6:調子の良い日には軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している

7:身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である

8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している

9:身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている

※PS3以上が慢性疲労症候群と診断される
参考:日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業 神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班

慢性疲労症候群の治療

EAT(上咽頭擦過療法)

Bスポット療法とも言われ、綿棒に0.5%〜1%塩化亜鉛溶液を染みこませ、鼻と喉から直接上咽頭に薬液を擦りつける方法です。

EATの効果発現機序は
@ 塩化亜鉛の組織収斂作用、抗炎症作用による上咽頭の炎症の鎮静化。
A 上咽頭に投射する迷走神経を刺激することによる自律神経系への作用と迷走神経・炎症反射を介した抗炎症作用。
B 上咽頭擦過に伴う瀉血による上咽頭うっ血状態の改善を介した脳脊髄液・リンパ路・静脈循環の改善。
の3つの機序に大別される。
咳、後鼻漏、頭痛、咽頭違和感、微熱などの改善は主に@と関連。自己免疫疾患の改善には@とAが関与する。また、自律神経障害などの機能性身体症候群の改善にはAとBの機序が関与する。
日本病巣疾患研究会HPより引用

反復経頭蓋磁気刺激治療(rTMS)

8の字コイルという特殊な刺激コイルを用いて、頭の外側から大脳を局所的に刺激して脳血流を増加させ、脳機能を正常な状態に戻すことを目的とした治療法です。

うつ病や発達障害などの精神疾患に有効とされていて、慢性疲労症候群に対しても利用される場合があります。

その他

漢方・鍼灸

抗不安薬・抗うつ剤

ビタミン剤

認知行動療法 など

薬物療法が主であり確立した治療法はありません。

慢性疲労症候群の鍼灸治療

鍼灸では、不定愁訴(ふていしゅうそ)と言われている体の症状や状態に対する治療を得意とし、症状の一つ一つを診るのではなく、体全体を診て治療する方法があります。

不定愁訴(ふていしゅうそ)は、臨床用語で、患者からの「頭が重い」、「イライラする」、「疲労感が取れない」、「よく眠れない」などの、「なんとなく体調が悪い」という強く主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの、検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態を指す。Wikipediaから引用

この慢性疲労症候群に対しても同じで、

問診と脉診・腹診などから体の状態を判断して治療方法を決定し、その人に適した治療を行ないます。

当院では、

  • YNSA
  • 頭に鍼を打つ方法で、痛みや自律神経症状に対して効果があります。また脳血流の改善効果があるため、脳梗塞の後遺症やパーキンソンなどにも有効な鍼治療です。

  • 長野式鍼灸治療
  • 鍼灸には様々な鍼灸治療が存在しますが、当院ではこの治療法を採用しているのは、問診と脉診・腹診にて診断し、「?血処置」「扁桃処置」「副腎処置」などの処置法(治療法)により再現性、即効性のある治療法だからです。

  • 灸治療
  • お灸は免疫力の向上や自律神経の調整にとても効果があります。

  • 井穴刺絡
  • 手足の爪の生え際にあるツボを刺激し、自律神経(交感神経 ・副交感神経)、 運動神経の異常緊張を抑え、生体の恒常性(体の状態を一定に保つ)を維持することにより病症を軽快に導く治療法

鍼灸の効果

鍼灸治療は慢性疲労症候群に対して有効であり、特に以下の効果が確認されています。
参考:Journal of Hotal Traditional Oriental Medicine, Vol. 3, No. 1, pp. 1-9, 2016

  • 疲労感の軽減
  • 慢性疲労症候群では、副交感神経の機能低下が見られることがありますが、鍼灸治療はこの副交感神経の機能を活性化し、睡眠の質を向上させる効果があります。

  • 自律神経の調整
  • 慢性疲労症候群では、副交感神経の機能低下が見られることがありますが、鍼灸治療はこの副交感神経の機能を活性化し、睡眠の質を向上させる効果があります。

  • 気虚の改善
  • 東洋医学的評価では、鍼灸治療後に「気虚」と呼ばれるエネルギー不足の状態が改善されることが報告されています。

  • ストレス軽減
  • 鍼灸治療は、精神的なストレスの軽減にも効果的であり、慢性疲労症候群に伴う不定愁訴(原因不明の体調不良)にも効果を発揮します。